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白銀色の月光を浴びて、狂ってしまったのは世界?それとも私?

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信者の心情ーー親鸞と頼朝の類似性

親鸞は嘉禎元年(1235年)秋頃に、妻・恵信尼や信者をおいて京都に戻っており(その後、亡くなるまで晩年の約三十年間は京都在住)、このために常陸(茨城)を中心とした北関東の信者のあいだに混乱がおこり、これが唯円が『歎異抄』を書いた遠因になっていると思います。
ところで私からすると、この混乱は、ちょっと、鎌倉幕府の動向について記した公的歴史書『吾妻鏡』が記している建久三年(1192年)の、幕府下文の書式変更に関する混乱(『吾妻鏡』建久三年八月五日条)を思い起こさせるところがあるのですね。
これは鎌倉時代の政治史を研究している人には有名な事件ですが、その混乱がどういうものだったかを簡単に記せば、この年征夷大将軍に任じられた頼朝が、それまで彼個人の名で御家人に発給していた所領安堵の下文を回収し、以後は将軍家政所家司の名前で下文を発給することに形式を変更・整備したのです。要するに、それまでの下文というのは、あくまでも頼朝が個人的に記した私的書類だったわけで、頼朝が将軍という公職についたことで、将軍・頼朝としての公式書類に、書類の書式を変更しようとしたのです。この公式書類というのは、将軍家政所の名で発給するもので、それには頼朝の署名(花押)はありません。
ところで『吾妻鏡』によれば、大御家人・千葉常胤はこの頼朝の決定に納得せず、従来どおり頼朝の花押が記された文書を要求して「頗(すこぶ)る確執した」といいます。この下文の件に関する政治的解釈はさまざまありますが、要は、千葉常胤は頼朝との人間関係、人的結びつきを重んじ、安堵の内容という実質は同じでも、人的関係が薄れた政所の事務的な下文を拒否したのだと解されます。
このように、形式や論理よりも、人的紐帯を重んじる精神風土が、関東の親鸞の信者にもあり(今井雅晴氏によれば、親鸞の信者の中心は武士)、したがって、彼らは親鸞が提示する浄土宗の理論だけでは満足できなかったのではないかと、私には思われるのです。
まあ、親鸞と頼朝は、都から来た貴種ということではある意味共通してますね。ですから、関東武士はその人と人的関係を結ぶことを重視し、自分が貴種と親しいことを強調したいわけで、その心性は親鸞や頼朝が考えるような論理性と相反するようなところがあったのではないでしょうか。私には、親鸞や頼朝は、関東武士のこうした心情を本質的には理解できなかったのではないかという気もするのです。まあこれは、親鸞の思惑と信者の意識のあいだの本質的なズレといってもいいかもしれませんね。これはあくまでも推測に過ぎませんが、親鸞の思想の論理性を理解し信じるというだけではなく、親鸞という人格を信じるという風潮が、関東にはあったのだと思います。
またこんな風に考えてみると、親鸞も頼朝ももとはといえば流人の身で、関東武士には、そうした流人に対し共感を感じるといった心情もあったのではないでしょうか。
ですから、親鸞が関東を去ると、信者同志のあいだで、自分の方が聖人と親しかったとか、聖人は自分にだけこう言ったとかいって、相論や混乱が生じてしまうのだと思います。
善鸞義絶事件が生じるルーツも、こうしたところにあったのではないでしょうか。つまり、自分の真の意図を説明するために息子・善鸞を関東に派遣するというのも、親鸞の真の意図の解明を求めて唯円ら信者が上洛するといのも、結局は同じ要請からきているように、私には思われます。

【参考】
「かつて昭和20年代から30年代に論争があったのです。それは親鸞の門弟たちの社会的階級は武士か農民かという論争でした。(中略)農民説は明らかな誤りです。もともとこの説は無理だったのです。その理由は、親鸞の生きていた鎌倉時代、ほとんどの農民たちには宗教を選択する権利はなかったからです。それを持っていたのは領主である武士たちです。外からやってきた親鸞の布教に応じることができるのは武士たちだったのです。」(今井雅晴氏『親鸞の家族と門弟』111-3頁)

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テーマ:日本文化 - ジャンル:学問・文化・芸術

  1. 2006/07/15(土) 12:40:47|
  2. 仏教史&仏教思想
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