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白銀色の月光を浴びて、狂ってしまったのは世界?それとも私?

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翻訳文化賞授賞式レポート

昨日は、大学時代からの友人に誘われて、日本翻訳家協会主催の第43回日本翻訳文化賞、第42回日本翻訳出版文化賞の授賞式に行ってきました。私と友人の共通の先輩が翻訳した本が翻訳出版文化賞を受賞したので、そのお祝いのためです。
とはいえ万事いいかげんな私は、会場の学士会館に着くまで先輩が受賞したのが何という賞かきちんと知らず、会場の雰囲気もわからなかったのですが、友人が誰でも行けると言葉巧みに誘ってくれたので、それに応じたものです。前日に友人と電話で話したときは、授賞式だし一応きちんとした服装をしていった方がいいのかなとも思っていたのですが、昨日の東京はひどい土砂降りの雨で、結局、上はジャケットを着てネクタイを締めましたが、下はジーンズにブーツというカジュアルな服装になってしまいました。
ということで、以下、授賞式の様子と受賞作品を簡単に紹介してみましょう。
まずは受賞作品の紹介(受賞は各出版社)。

【第43回日本翻訳文化賞】
岩波書店 『繻子の靴』(クローデル著、渡辺守章訳)

【第42回日本翻訳出版文化賞】
未知谷 『ポーランド文学史』(ミウォシュ著、関口時正他訳)
新潮社 『ドン・キホーテ』(セルバンテス著、荻内勝之訳)
教文館 『マイモニデス伝』(ヘッシェル著、森泉弘次訳)
法政大学出版局 『ジャン・メリエ遺言書』(メリエ著、石川光一、三井吉俊訳)

受賞作はヨーロッパ作品が中心ですが、かつての翻訳文化の主流である英仏独の作品だけでなく周辺の国、周辺文化を紹介した作品に対象が拡大しつつあるのが特徴といえるでしょう。また翻訳文化の主流であるフランスに関しても、メリエの遺書は反キリスト教的な内容のもので、最近は、合理主義、理性主義的なヨーロッパ文化のなかでなかなか陽が当たらなかった分野の著作の紹介に評価が高まっているといえます。ところで、日本におけるキリスト教著作の翻訳紹介といえば、アウグスティヌス、トマス・アクィナス等の著作を出版している教文館はその最大の核ともいえるのですが、その教文館がキリスト教関係の出版では翻訳文化賞の受賞歴がなく、今回、ユダヤ思想の紹介で受賞したというのも、時代の流れを感じさせて興味深いと思います。また授賞式では、その教文館の代表とメリエの遺書を出版した法政大学出版会の代表がなかよく隣同士に並んでいたのも、私にはとてもおもしろかったです。

式ではまず翻訳文化賞作品の翻訳者・渡辺守章さんの挨拶があり、渡辺さんは、自分がフランスに留学することになり出発したのが10月6日で(その時はフランスに着くまで船で53日かかったという)、10月6日にはいろいろと縁があるということを枕に、優秀な編集者、校閲者が減っていくなかで、岩波書店はレベルの高い編集・校閲を存続させており、それで安心して仕事ができたと、本をつくるという作業と出版社のかかわりの重要性を指摘しました。渡辺さんのスピーチを生で聴くのはこれがはじめてで、イメージどおりの巧みな話しぶりに感心しました。ただし渡辺さんは昨日も京都の大学で演劇の集中講義を教えているとのことで、スピーチが終わるととんぼ返りで京都に戻りました。
渡辺さんに続いては、受賞出版社岩波書店社長・山口昭男さんの挨拶。岩波書店の社長を生で見るというのもこれがはじめてで、私は、「ああ、こういう人が岩波書店の社長なんだ」と、それだけでも興味深かったです。ちなみに山口さんは編集畑出身のソフトな感じの人(それにとても若い)で、今回の受賞は、経営者としてというよりも、長年渡辺さんとつき合ってきた人間として渡辺さんをお祝いしたいというような趣旨のことを述べました。
ちなみに『繻子の靴』は、岩波文庫の一冊として刊行されていますが、文庫本が翻訳文化賞を受賞したのは、今回がはじめてといいます。受賞作品『繻子の靴』は、上演すれば10時間はかかるというクローデルの大作戯曲で、外交官でもあったクローデルが日本にいた時期に完成されたものです。翻訳は、膨大な註などに渡辺さんの苦労が滲み出ていると高く評価されました。

続いて、翻訳出版文化賞作品を紹介しましょう。
まずは私の大学時代の先輩・三井吉俊さんと石川光一さんが訳した『ジャン・メリエ遺言書』。
この作品は、18世紀フランスでカトリック司祭を務めていたメリエが、司祭のつとめを終えた夜中に書きため、死後公になった文書で、その内容は、神の存在、教会の存在を否定するきわめて大胆なものです。当然、公権力によって黙殺されましたが、ヴォルテールによって刊行され、18世紀におけるキリスト教批判の起爆材となった非常に重要な書です。
この翻訳も、渡辺守章さんの『繻子の靴』同様、三井、石川両氏の20年以上のメリエ研究の賜物で、両氏によれば、一時は経済的・物理的に出版不可能かと思われたものが、ようやくここまでこぎ着けたといいます。しかしこの本が出版されたといっても、それは経済的にうまくいっているということではなく、法政大学出版会の編集代表・平川俊彦氏によれば、600部しか印刷することができず、非常に苦しいといいます。
ちなみに、先輩といっても、私の学生時代に三井さんはすでに大学院生だったので、厳密には先輩といえないかも知れませんが、私の通っていた大学は、学部と大学院の垣根がなく非常にフランクな感じだったので、やはり先輩と言った方がすっきりします。三井さんとお会いするのは学生時代以来実に20数年ぶりだったのですが、お会いすると、座っている後姿をみただけで三井さんとわかりました。また、式典後の懇親会でお話ししているうちに、しばし時間の経過を忘れてしまう感じがしました。

続いては『ポーランド文学史』。この本も、今後数十年間は類書がでないであろうといわれる決定版です(著者のミウォシュは、1980年のノーベル文学賞受賞者)。
授賞式には、ポーランド大使館の書記官ラドスワフ・ティシュキェヴィッチさんが来ていて、この本の出版が日本でポーランドのことを知ってもらうよい機会になればいいと日本語で即席のスピーチを行いました。私は18世紀の分割期のポーランドに興味があり、そんなことから少し氏とお話ししました。
縁とは不思議なもので、この本の出版社・未知谷の担当者Sさんは私の知っている編集者で、会場でぱったり会って、互いにまず、なぜあなたはここにいるのと驚きました(笑)。
ということでSさんともいろいろ雑談しましたが、いずれにしても、彼が元気で仕事をしている様子に安心しました。

『ドン・キホーテ』については、私は語る資格はほとんどないのですが、これまで何度か出ている翻訳の中で、今回の荻内訳は、「読める訳」になっているというのが高く評価されていました。新潮社の担当者も、自社は大衆文学の出版社と自認しており、今回の受賞作には難しい本が多いなかで、『ドン キホーテ』が読みやすいとして評価されたのは非常にうれしいと率直に語っていました。実はこの新潮社版『ドン キホーテ』には註が一つもないということですが、訳者・荻内勝之さんは、「『ドン キホーテ』を出版する時は註など一つもつけないで欲しいというのがセルバンテス自身の希望であり、自分はそれに従った。どうしても註が欲しいという人は岩波文庫などを読んで欲しい」と語って、会場をわかせました。

さて最後は『マイモニデス伝』。この本、今月1日の読売新聞読書欄で紹介されており、日本で初の本格的マイモニデス評伝といいます。また著者のヘッシェルは、20世紀を代表するユダヤ神学者とのことです。読売新聞の書評(神崎繁氏執筆)によれば、「1935年、既にユダヤ人排斥の始まったさなかに、著者はマイモニデス生誕800年記念に委嘱された本書を完成させ、米国に亡命した。その行程は、迫害を避けて彷徨したマイモニデスを彷彿とさせ、多宗教共存の崩壊を二重に刻印している」といいます。おもしろそうなのでさっそく注文しようとその記事を切り抜いた矢先に、会場で今回の受賞を知り、非常に驚きました。
私がマイモニデスの名前を知ったのは、井筒俊彦氏の著作『超越のことばーーイスラーム・ユダヤ哲学における神と人』(岩波書店、1991年)によってで、このなかに含まれた「中世ユダヤ哲学史における啓示と理性」のなかで、井筒氏は、「普通、西洋哲学史は、イスラーム哲学・ユダヤ哲学の叙述にかなりの頁を当てる。それは、13世紀のトマス・アクィナスをはじめとするキリスト教的中世スコラ哲学にたいするこれら二つの東方哲学潮流の決定的に重要な影響を考えてのことだが、その場合は、ユダヤ哲学は10世紀のサアディアーに始まり、12世紀のマイモニデースに終わるとされるのが通例である」(同書281頁)と、マイモニデスを非常に重要な思想家としてとりあげています。
マイモニデスといっても、ほとんどの人は初めてきく名前だと思いますが、現スペインのコルドヴァで生まれエジプトに移住して活躍した汎地中海的哲学者で、その思想は中世ユダヤ哲学の頂点とされます。また今日の政治状況ではとても考えられないことですが、マイモニデスは、それを当時の地中海世界の共通語であるアラビア語で記しました。エジプトではアイユーブ朝の宮廷に医師として仕えて、「天の徴」「時代の驚異」「東と西の光」「燃える希望」等と讃美され、その死にあたっては、ユダヤ人もアラブ人も、ともに三日間喪に服したといいます(以上井筒俊彦氏による)。生没年は1135-1204。同じころの日本では、法然が1133-1212、親鸞が1173-1262の生没です。
以下、井筒氏の叙述を少し追ってみましょう。
「マイモニデースにとって、ユダヤの啓示的宗教とギリシア哲学とは、二つの並立する独立の真理体系ではなかった。本性的に矛盾する二つの真理体系を、なんとか協調させて両者の間に一致点を見出すというようなことは、はじめから彼の念頭にはなかった。宗教と哲学とは、深層において全く同じ一つのものだったのである。より具体的には、哲学を、啓示の正しい理解ーーということは、前述した原則に従って、啓示の理性的理解ということにほかならないのだがーーへの唯一の方法として彼は構想した。」(井筒氏前掲書372頁)
「マイモニデースの出現とともに、中世ユダヤ哲学は、史的発展の壮麗な頂点に達する。いわゆるアリストテレス主義系統の哲学に関するかぎり、彼の作り出した広大で厳密な思想体系の上に出るものは、彼の以前にも以後にも現れなかった。ユダヤ教ーー特にラビ的・タルムード的に解釈されたユダヤ教ーーの、伝統的な宗教思想の地盤の上にギリシア哲学特有の理性的思惟を根づかせようとする大がかりな統合文化意図が、中世哲学の始めから蔭に陽に働いてきたことは前述の通りであるが、その試みは、イブン・ダーウードの例でもよくわかるように、いつも中途半端に終わっていた。それが、マイモニデースに至って、ほぼ完璧な形で実現したのである。」(同書363頁)
懇親会では小柄な紳士が私の横に座っていたのですが、会が進むと、司会者の紹介でその方が『マイモニデス伝』の訳者・森泉弘次さんだとわかりました。私はさっそく自己紹介させていただき、今回の本も、非常に楽しみにしているとお伝えしたところ、喜んで握手してくださいました。

ということで、不思議な出会いがいろいろあり、さまざまな人と話すことができて、私にとっては非常に充実した会でした。

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